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がん特集 Part.6:大腸がん

がん特集 鈴木英之

大腸がん(結腸がん+直腸がん)は、日本では戦後一貫して男女ともに発症率や死亡率が増加傾向にあったがんです。現在は多少横ばいになりましたが、われわれにとって身近ながんであることには変わりません。一方で、大腸がんは早期発見による治癒率が高く、検診の有用性がとても高いがんとしても有名です。今回のWebマガジンでは、大腸がんについて日本医科大学消化器外科の鈴木英之先生にお話を伺いました。


1. ライフスタイルの変化と大腸がん

大腸がん年代別罹患率大腸がんはこれまで日本で非常に増えてきた疾患です。2000年頃まで増加傾向にあり現在は横ばいになりつつありますが、患者数では現在でも日本で最も多いがんとなります。大腸がんの発症のピークは60歳代からですが、遺伝性大腸がんですと40歳以前より発症することもあります。罹患率(1年間に新たに大腸がんと診断される確率)では男性と女性でかなり差があり、男性が10万人当たり70人程度で、女性が40人と、男性の方が倍近くある状況です。大腸がんが増えてきた背景としては、食事の欧米化の影響が大きく、戦後に食生活が欧米式にシフトし、肉食が多くなったのが原因と言われています。昔の日本人の食生活は穀物や野菜が主体でしたが、日本以外でも穀物や野菜中心の食生活を送る人種では、大腸がんの発症率が低いと言われています。ただし、同じ人種であっても、たとえばハワイ在住の日系2世、3世では大腸がんの発症率が日本人よりも高いことが知られていて、大腸がんの発生には遺伝的要素よりも、食生活などライフスタイルの影響が大きいと考えられています。ですから、どういう人が大腸がんになりやすいか、となると、人種よりもライフスタイルに規定されることが大きいですね。ライフスタイルの中でも、特に肉中心で野菜を取らない食生活、喫煙、運動不足などが、大腸がんの発症に大きく影響しています。また、肉中心の食事がよくない理由として、動物性タンパク質は腸内のいわゆる「悪玉菌」を活性化してしまいます。そのため大腸がんが出来やすい腸内環境を育ててしまうといわれています。同時に便秘も大腸がんに良くない状況です。なぜかというと、便秘になると食物が腸内に長く留まるため、食物の発酵が進み、悪玉菌が増殖しやすくなってしまうからです。一方、大腸がんは比較的家族集積性が高い疾患と言われており、両親、祖父母などが大腸がんだと、本人もなりやすいとも言われています。ただ、遺伝性大腸がんの全体に占める割合は数パーセントに過ぎず、ほとんどの大腸がんは、遺伝性がないと考えられています。以上から、大腸がんの発症には食生活などのライフスタイルが大きく影響していますので、予防法というのは、肉中心の食生活を変える、禁煙する、運動する、ということになります。ただ現実的には、肉を全く食べないわけにもいきませんから、そうなると大腸がんについては、早期発見をすることが大事になります。仮に大腸がんを発症しても早期であれば内視鏡で治療できますし、手術をしても早期だと再発率も低い。ですから、早期発見が非常に大事で、そのためにもぜひ検診を受けて欲しいと思います。


2. 大腸がんの症状

大腸がんの自覚症状としては、血便、腸閉塞、貧血などがあります。特に貧血を呈する例は多く、内科で貧血を指摘されて検査したら大腸がんだった、と言うことがしばしばあります。血便が出たら医療機関を受診することは当然として、それ以外でも日頃から便の状態を見ること、すなわち便通の習慣が変わった、便が細くなった、などを観察するようにして、変化が見られたら、ぜひ医療機関を受診してほしいと思います。


3. 大腸がんの検診

検便キット大腸がんの検診には大きく二つあります。一つは「便潜血検査」と言って、便の中にわずかな血液が混ざっているかどうかを見る検査、もう一つは「大腸内視鏡検査」と言って、お尻から内視鏡を入れて大腸の中を直接見る検査です。二つの違いですが、内視鏡検査では病変があれば必ず診断がつきますが、検査の前に腸を空にする必要があり、そのため前日夜から絶食し、当日も下剤を使用します。また痛みも多少あるので、それなりに負担がかかります。一方で便潜血検査は簡単ですが、「疑陽性」の問題があります。疑陽性というのは、便潜血反応は陽性であるにも関わらず、実際には病変がない状況です。便潜血反応は感度がとても高いので疑陽性が多くなり、便潜血陽性の実際の有病率は5割と言われています。ちなみに、便潜血検査は自治体のがん検診でも用いられていて、2日法と言って別々の日に便を2回取る必要があります。ただ、非常に簡便で、キットさえあれば自宅で気軽に出来ますので、まずは検診で便潜血検査を受けてほしいと思います。

がん検診に関しては、40歳を超えたら自治体などでぜひ受診して頂きたいですね。今はがん検診全体の受診率が低いことが問題になっていますが、大腸がん検診でも実際に検診を受診する方は6人に1人(17%)と言われています。また、受診した方の10人に1人に精密検査が必要となり、さらにそのうち5人に1人が生検(内視鏡で大腸の粘膜組織を採取して顕微鏡でみる検査)を必要とします。そして、生検したうちの50人に1人が大腸がんと診断されています。ですから、検診を受診した方が大腸がんと診断されるのは10万人中7人ですが、そもそも6人中1人しか受けるべき方が受けていないので、本来であれば、検診で見つかる方は現在の6倍もいるはずです。大腸がん検診は他の検診、たとえば肺がんや乳がんと比べると、あまり目にする機会がなくて皆さんに知られていない気がします。やはり国として、きちんと数字などを出して大腸がん検診の啓蒙活動する必要があると思います。


4. 大腸がんの診断

大腸内視鏡検査、内視鏡昔は注腸検査と言って、お尻からバリウムを入れてレントゲンで見る検査が一般的でしたが、この検査では小さい病変を見落とす可能性があり、また便が邪魔をしてがんが見つからないこともあります。そのため、大腸がんが疑われる方には、当院では全例で大腸内視鏡検査を行い診断します。内視鏡検査では、腸内の病変を直接見ることで、病気の深さ、大きさ、場所などが分かります。また病変を確認すると同時に「生検」と言って、病変部の組織を取ってきて、顕微鏡で見て大腸がんと確定診断します。その後に、更に手術の方針を決めるということになりますと、重要なのは、他臓器に転移があるかどうか、ということになります。なぜなら、リンパ節転移や、遠隔転移があると、治療方法が大きく変わってくるからです。ですから、大腸がんと診断した後は、CTなどの画像検査で、がんの転移の有無を確認します。


5. 大腸がんの進行度と治療

がんの進行度については、他のがんと同様に、病期(ステージ)で表します(図2)。大腸がんでは、一番早期で軽いものはステージ0。これはがん自体も小さくて、粘膜内にとどまっていて、転移もないもの。この場合は、リンパ節への転移の可能性もほとんどないため、内視鏡で治療します。当院の場合は、一泊入院して頂きますが、内視鏡治療の場合はお腹を切らないので翌日から普通の生活が送れます。まれに合併症として腸内の切り口から出血することがありますが、ほとんどの方は次の日から社会復帰ができます。ただし、ステージ0のがんは、通常は症状が全くなく、また便潜血も陽性とならないことが多く、何かの拍子で偶然内視鏡を実施しないと見つかりません。
大腸がんの進行度その次はステージⅠで、がんが粘膜内を出て、粘膜下層と筋層に少し入ったがんです。この場合は、リンパ節転移はありませんが、粘膜内のがんにくらべると、その可能性は否定できませんので、治療法としては、内視鏡ではなく、手術をして、腸管切除とリンパ節廓清を行います。ですから、内視鏡か手術か、という意味では、ステージ0とステージⅠでは雲泥の差があります。ステージⅡはがんが筋層を超えて浸潤した場合ですが、リンパ節転移がありませんので、手術をすれば非常に良く治り、通常は術後の化学療法も必要ありません。またステージⅢはリンパ節転移のある状態で、転移しているリンパ節の数により、それぞれⅢaとⅢbに分かれます。この場合も、手術によって腸管切除とリンパ節廓清を行います。ただし、ステージⅡとの違いとして、ステージⅢの場合は、通常「補助化学療法」と言って、再発を抑制するために手術後に全身化学療法を行う必要があります。最後に肝臓や肺など他臓器に遠隔転移がある場合。この状態をステージⅣと言います。この場合、大腸がんの原発層がどんなに小さくても遠隔転移がある時点でステージⅣとなり、治療は手術のみでは難しいため、化学療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療を行います。


6. 開腹手術と腹腔鏡手術

手術跡の違いさて手術方法に関してですが、現在は2通りの方法があります。お腹を大きく切る「開腹手術」と、お腹を小さく切る「腹腔鏡手術」です。腹腔鏡手術では、4つか5つの切り口をあけますが、一つ一つの切り口は5mm程度なので、術後は傷跡がほとんど分からなくなります。また最近では切り口の数を減らして1つや2つでやる試みもあります。一方で、開腹手術では、通常、おへその上から恥骨まで切開しますので、大きさとしては25cmにもなります。患者さんの体に対する負担という意味では、切り口の小さい腹腔鏡手術の方が断然少ないですね。当院では、手術が必要な場合は、出来る限り小さい傷ですむ腹腔鏡手術を全例で実施するようにしています。ただし、腹腔鏡が出来ない方、たとえば以前に手術してお腹の中に癒着がある方や、重度の肥満の方、あるいはがん自体がとても大きい方は、最初から開腹手術をします。ただ基本は腹腔鏡手術を行うようにして、状況によって途中から開腹手術に切り替えることもあります。たとえば腹腔鏡手術を実施したところ、思ったよりもがんが大きい場合とか、思ったよりも内臓脂肪が多くて視野が狭い場合、などでは切り替えます。ですから、患者さんには手術前に、場合よっては腹腔鏡手術から開腹手術になる可能性がある旨をお伝えします。ちなみに、男性は女性に比べると内臓脂肪が多いので、腹腔鏡手術から開腹手術への切り替えが高いのは男性になります。その意味では、もともと女性は男性よりも骨盤が大きく内臓脂肪も少なく視野が良いため、手術をし易い面があります。

腹腔鏡手術

手術時間に関しては、がんの場所によりますが、一般的には3〜6時間程度になります。直腸のように、がんの場所がお尻に近いほど時間がかかります。また入院期間については、腹腔鏡手術で1週間〜10日程度、開腹手術で2週間程度になります。手術後の回復状況については、大腸は胃とは違うので、便さえ出てしまえば、いくらでも食べられます。一方胃がんは胃を取ってしまうので、食事が上手にとれないことが多いですね。やはり食べるという行為は人間の力の一番の根源ですから、大腸の場合は比較的早く回復できます。当院では、手術の翌日から水を飲み、その次の日から流動食。3日目から普通食となります。これは患者さんの年齢に関係なくクリニカルパスと呼ばれる一連の流れにそって進めていきます。


7. 手術の合併症

手術の合併症として一番避けたいのは、縫合不全です。縫合不全が起きると便が腹腔内に漏れてしまいますので、本人もお腹が痛くなり再手術が必要となります。ですから、縫合不全が起きないように非常に気をつけます。また大腸は細菌が多いので、傷口が化膿し、そこから腸閉塞などを起こしてしまうこともありますので、注意が必要です。さらに、術後の癒着性イレウスといって、お腹の中の傷口に腸がくっついてしまうことも可能性としてあります。ただし、これらは腹腔鏡手術では、そのリスクが低いと言われています。ですから、合併症の点からも腹腔鏡手術の方が良いと思います。患者さんとして出来ることは、普段からなるべく運動をして、内臓脂肪を減らすことが大事です。運動そのものが大腸がんのリスクを下げますし、また手術も楽になりますので、普段から内臓脂肪を減らす努力は大事だと思います。


8. 手術のスケジュール

当院では、手術の日程はがんが見つかった時点で決めることにしています。当院では診断から手術までの期間は約1ヶ月になり、その間に、転移の有無や患者さんの健康状態を判定する必要します。特に大腸がんになりやすい方は60代、70代が多いですので、大腸がん以外の病気を持っている方もとても多いです。ですから、そもそも手術を受けられる健康状態かどうか、手術の前に治療しておくべき病気はないか、などを知る為にも1ヶ月程度はかかります。


9. 手術後の再発予防

大腸がんのステージ別5年生存率残念ながら、一旦がんになると、ある一定の率で再発してしまいます。再発率はステージごとに決まっていまして、たとえばステージ0やⅠでは5年間に再発するリスクは2割以下、すなわちは8割以上の方は治ります。一方ステージⅢですと、3〜4割の方は5年の間に再発してしまいます。ただし、これはご自分の努力ではどうしようもありません。ですから、あらかじめ再発率が高いことが予想される場合は、予防的に抗がん剤、すなわち「術後補助化学療法」を実施するようにしています。我々の方から、たとえば「〇〇さんはステージⅢですので、5年後の再発率は通常3〜4割になります。ですから、予防的に術後補助化学療法を実施するのが良いと思います」というように情報提供とともに治療方針をご提案し、最終的に実施するかどうかは、患者さんが決定されることになります。というのも、術後補助化学療法を行うと、どうしても外来通院回数が増え、経済的にも負担が生じます。ですから家族を支えている方、会社勤めをされている方など、患者さんによっては断られる方もいらっしゃいます。治療スケジュールは、抗がん剤によっても変わりますが、一般的には術後に2週間または3週間毎に1回抗がん剤治療を行い、1年程続けます。


10. 最新の治療法について

化学療法の中では、近年「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤が登場してきて、これが治療の中心となっています。これまでの抗がん剤というのは、がん細胞の増殖を抑制する薬、すなわち細胞分裂をさせない薬が中心でしたが、がん細胞のみを標的にするわけではないので、全ての細胞に毒となってしまいました。すなわち、がん細胞にも効きますが、正常細胞にも障害を起こしてしまう。その結果、多くの副作用が生じてしまいました。一方で、分子標的薬は、がんの特有な機能だけをたたく効果があります。がん細胞は非常に増殖能力が強いので、その分栄養がたくさん必要になります。そこでがんは、自らの周囲に血管を新生して、自分に血液を呼び込もうとします。分子標的薬の中には、血管新生を抑制する薬があります。簡単に言うと、がんを兵糧攻めにする薬です。高血圧、鼻出血などという特有の副作用がありますが、非常に良く効く薬です。また副作用と言っても、これまでの抗がん剤の副作用、たとえば発熱、倦怠感、下痢・嘔吐や脱毛、白血球や血小板減少、などのつらいものはありません。そういう意味では画期的な薬です。分子標的薬の「アバスチン」という薬は5年ほど前より使われていますが、大腸がんの中ではキードラッグと言って、非常に大事な薬の一つです。使い方としては、今までの抗がん剤と併用して使います。従来の抗がん剤の量は減らさず、プラスαの効果を期待するわけです。


11. 治療の際心がけていること

今一番心がけていることは、手術後の運動機能を保つことです。患者さんには手術後でも、なるべく元からあった大腸・肛門の機能を残してあげたい、と考えています。もちろん病気を治すことが大前提にはなりますが、大腸、特にお尻に近い直腸の周りには神経が非常に多いので、できるだけ手術で神経を切らずにきちんと全部残すことを心がけています。患者さんに手術のお話をすると、多くの場合、「人工肛門になりますか?」と聞かれます。直腸の手術の場合は肛門を残せない場合もあります。その場合は人工肛門になってしまいます。特に下部直腸がんで進行がんの場合は、そのようになる可能性が高いのですが、可能な限り肛門機能を温存することを心がけています。


12. セカンドオピニオンについて

患者さんにとっては、方針に関して迷われる段階と、そうでない段階があるとおもいます。たとえば、ステージ0やⅠでは、手術をすれば治るので、どの医療機関でも同じ過程と結果になる可能性が高いと思います。その場合は、治療方針に関してセカンドオピニオンは必要ないと思います。一方で、ステージⅢやⅣでは難しい手術になることも多く、そうなると症例数も多くて慣れている施設とそうでないところでは、手術方法や術後の化学療法に差が出てくる可能性はあります。例えば同じステージⅢでも、腹腔鏡手術をする先生もいれば、開腹手術をする先生もいます。それは施設によってさまざまだと思います。ですから、このような場合は、いろいろなところによく話を聞いて決めたほうが良いと思います。ただステージ0やⅠではおそらく全国どこに行っても同じ治療法なので、近くの施設で治療するほうが、負担も少なく良いと思います。医療機関を選ぶポイントとしては、最近は情報が色々ありますので、情報を良く調べておいでになると良いと思います。一般的には、やはり大腸の専門家がいるところ、専門家がホームページなどで治療方針などコメントを書いているところ、あとは手術件数なども参考にしてほしいと思います。


大腸がんはがんの中では治るがんだと思います。全体で7割は治るといわれています。検診の受診率が上がれば、もっとあがる可能性がありますので、ぜひ検診を受けて早期発見、早期治療につなげてほしいと思います。

(この記事は2012年6月取材時点の情報です)


鈴木英之日本医科大学外科学(外科学一般・消化器外科学)教授武蔵小杉病院消化器病センター部長

日本医科大学武蔵小杉病院消化器病センター

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